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第14回環境史研究会ワークショップ [研究会]

第14回環境史研究会ワークショップを東京大学にて開催しました。
森林関連の報告もあり、大変盛り上がりました。
次回は3月末になりそうです。

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【日 時】 2014年10月18日(土)13時~17時

【場 所】 東京大学農学部キャンパス内向ヶ丘ファカルティーハウス2Fセミナー室(動物医療センターの近くです。詳細は下記URLをご覧ください)
http://www.mukougaoka-facultyhouse.jp/access.php
※当日は大学のホームカミングデー行事のため、いつもと会場が違います。お気を付け下さい。

【題目と概要】

「砥川流域協議会における住民合意形成の背景としての流域とのかかわり史――恩恵と災害リスクを軸に」 保屋野初子

 下諏訪町の大半を占める砥川流域では、上流部での県営ダム計画をめぐる反対運動に端を発する地域内の対立、県政レベルの紛争がほぼ10年間続き、2003年にダムに拠らない河川整備計画原案を話し合う砥川流域協議会が設置され、合意形成が図られた。本研究では、流域住民を主体とする形で設計された協議会において住民同士が対立点を乗り越え合意に到達していった過程を、議事録に基づき詳細に分析した。分析にあたり、砥川流域における地形・生態系と地域住民とのかかわりを藩政時代に遡って原型を設定し、現在に至る変遷を検討した。原型は、入会による資源確保、上流を原因とする土砂水災害に着目し、人々が恩恵を求めて上流域にかかわる方向と、それによって下流域方向に潜在的に増大する災害リスク、という動的な関係性が均衡する状態とした。恩恵/災害リスクという軸の設定は、住民にとっての流域が相反する要素が切り離せない全体的存在であることを捉えるためでもある。この軸を以て流域協議会の議論を分析したところ、流域の場所ごとに住民が互いの間で恩恵とリスクを再配分していること、上流と下流の間で恩恵と災害リスクの配置換えを試みるなかで流域意識を共有していったことがわかり、そのプロセスそのものが合意形成のダイナミズムとして捉えることができた。流域意識の共有が可能となった要件の一つに、この流域で繰り返される御柱祭という恩恵の存在もある。本研究は、流域の改変や維持管理には、恩恵と災害リスクを過去から将来にわたって享け続ける当事者である住民を主体に据えた合意形成が必要であることを明らかにした。
 (参照)『流域管理の環境社会学
―下諏訪ダム計画と住民合意形成―』https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/3/0255700.html


「裁判史料よりみた、清代中国における山の利用と管理」 相原佳之

 本報告では、清代中国(1636~1912年)における自然資源の利用や管理のあり方を、同時代の裁判史料より考察する。
 清代の裁判は、最下級の官庁で受理された後、案件の軽重など必要に応じて上級官庁に上申され、覆審を経て最終的な刑が決定された。死刑相当の案件については皇帝まで文書が進呈され、刑が確定した。この進呈された文書は刑科題本と呼ばれる。刑科題本には事件のいきさつや関係者の供述が記録され、そこに含まれる情報は当時の家族関係や経済活動などさまざまな社会生活に接近するための材料としても研究者に利用されてきた。
 報告では、刑科題本から山地や樹木など自然資源の所有・利用・管理に関わる事例を取り上げて考察する。なかでも、資源をめぐる共有や共同のあり方について、コモンズの議論等も参照しながら整理することで、他の地域・他の時代との比較に向けた議論の素材としたい。

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林業経済学会シンポ「国立公園の新たな管理へ向けて-ニーズの変容と制度的対応-」 [研究会]

いよいよ今度の日曜になりました。
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 林業経済学会では、3/30(日)9時より、
春季大会シンポジウム(国立公園の新たな管理へ向けて-ニーズの変容と制度的対応-)
を開催いたします。2006年に林業経済研究所との共催で行った国立公園シンポは、その後の自然公園行政に影響を与えたと自負しておりますが、未だ論ずべき多くの課題があると考え、今回の企画に至りました。
 学会員の方は、学会誌『林業経済研究』最新号にて、3報告を事前にお読みいただけます。残り1報告は学会ウェブ上に3月末まで掲載しておりますので、全報告を事前にご覧いただけます。事後的には、『林業経済研究』誌に残り1報告および(登壇者以外の会員による)コメント論文、学術誌『林業経済』誌に討論概要を掲載する予定です。
 なお、非会員の方も聴講可能です。事前申し込みは不要で、参加費1,500円(一般・学生同じ)を申し受けます。(文責:実行委員会総務)

リンク:
学会公式ページ
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第12回環境史研究会ワークショップ [研究会]

第12回環境史研究会ワークショップを3月8日に東京大学で開催します。
誰でも無料で参加できます。
お問い合わせは、竹本まで。

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【日 時】 2014年3月8日(土)13時~18時

【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室

【発表題目と概要】

「会計簿が語るアルプス環境史―研究の展望」 渡邉裕一

 会計簿は環境史研究の主要史料となり得るだろうか? 本報告では、報告者が博士論文の執筆過程で新たに発掘したアウクスブルク市立文書館所蔵の「森林書記の会計簿」(1563年~1607年)を取り上げ、この問いへの接近を試みる。博士論文では、この会計簿の分析を通じ、木材不足に直面した都市アウクスブルクの市参事会が、いかに16世紀後半の「エネルギー危機」を乗り切ろうとしたのかを明らかにした。しかし、森林書記会計簿の史料価値はそれに留まらない。報告者は今後さらに、アルプス山脈・レヒ川流域における地域社会と自然環境との複雑な相互関係を「危機の克服」という分析視角から多角的に考察していく予定だが、本報告では、そのための主要史料となる会計簿の潜在可能性について論じる。日本史やアジア史の専門家、また歴史学以外の研究者からも多くの御意見を頂戴したい。


「明治前期、中国山地農村における地主小作関係の再検討―広島県比婆郡奥門田村を事例に―」 平下義記

 本報告の目的は、広島県比婆郡奥門田村(現庄原市高野町大字奥門田)を拠点とする在村地主栗本家の所蔵文書の分析を通じて、近代日本における地主小作関係の特質を、具体的ケーススタディーの中から再検討するところにある。
 この栗本家文書には、小作人別・耕地別の小作料納入状況を記録した「小作料領収帳」、耕地1枚ごとの収穫量を記録した「収穫見積帳」が、明治初年から20年代にかけて伝来している。また、村内の農家構成を復元できる「戸籍帳」や、各農家の土地所有のあり方の変化が判明する史料も存在する。
 これらの史料群を統合的に分析することにより、従来の研究では必ずしも明らかになってこなかった問題を浮き彫りにすることが可能となってこよう。本報告の具体的作業は、小作契約の継承者/非継承者を判定し、そこでの分岐と、その小作人の属性(経済状況、土地所有の有無)、小作料納入率との関係の分析を行うことである。それを踏まえ、上述の課題にアプローチしていきたい。


「近世における山村の食糧確保」 栗原健一

 近世社会は、度々飢饉に見舞われ、食糧問題が大きな課題であった時代である。人々はさまざまな飢饉対策をとっていたが、本報告では、その中でも近世後期の備荒貯蓄について検討する。事例として、秋田藩の山村である出羽国秋田郡小猿部七日市村(現、秋田県北秋田市)を中心とした親郷・枝郷の村々を取り上げる。「郷備米」や「五升備米」という在村貯蓄(備荒貯蓄)の実態と歴史的変遷を追い、その関係性を明らかにした。具体的には、まず文政期の「郷備米」とそれをめぐる小百姓騒動を検討し、次に天保期からの「五升備米」の形成と貯蔵を分析し、続いて幕末期の「郷備米」の展開を追った。最後に、当該地域の備荒貯蓄の特徴を指摘した。

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EAEH2013 東アジア環境史学会@台湾花蓮 [研究会]

10月23日〜27日に、
台湾花蓮で開催されたEAEH2013(東アジア環境史学会)に参加してきました。
懇親会では台湾の先住民族の舞踊を観ることが出来ました。
karen.jpg
学会中、フィンランド、ドイツ、イギリス、自分(日本)の多国籍チームで、
一日、タクシーを借り切って、
花蓮からほど近いタロコ渓谷に足を伸ばしました。
taroko1.jpg
日本統治下に道を切り開き、鉱山開発や、公園開発がなされました。
taroko.jpg
一番奥の渓谷は、本当に素晴らしかった。
またいつか訪れたいです。
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森林・林業の特別講演 7/3 [研究会]

みなさま

下記のように7月3日(水)に『森林・林業白書』に関する講演を開催します。
ふるってご参加ください。

【森林・林業の特別講演】

[演題] 「平成24年度森林・林業白書」(平成25年6月公表)の解説
[日時] 7月3日(水) 15時~17時
[場所] 農学部7号館A棟114・115教室
[演者] 佐藤 正 氏(林野庁企画課長)
[内容] 「森林・林業白書」の担当部局である林野庁企画課の佐藤正課長をお招きし、先般公表された「平成24年度森林・林業白書」を踏まえて、
森林政策に関する最新の動向について講演戴きます。

*講演後、17時より林学会議室(1号館3階)にて懇親会も予定しております。あわせてご参加いただきますようご案内申し上げます。

[プログラム]
1500-1510 開会挨拶       永田信(林政学研究室)
1510-1600 森林・林業白書の解説  佐藤正(林野庁企画課長)
1600-1610 -休憩-
1610-1650 質疑応答
1700-1830 懇親会

[問合] 林政学研究室 03-5841-5213(竹本)

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地域エネルギーシンポ:お手伝い中 [研究会]

2012.9.29(土)
シンポジウム「(里エネ)ルネサンス!活かそう地域のエネルギー」お手伝い中
(17:35まで)。
場所は東京大学弥生講堂(一条ホール)。まだ席があります。お早めにどうぞ。
入場無料。どなたでも参加できます。

1)安村 直樹(東京大)「里エネ利用のルネサンス-需要側から」
2)河野 太郎(衆院議員)「これからの日本のエネルギー」
3)小池 浩一郎(島根大)「熱利用が唯一最優先の課題」
4)竹川 高行(葛巻町森組)「葛巻町森林組合の挑戦」
5)木平 英一(DLD)「身近な森林を身近なエネルギーに-薪の宅配」
6)泊 みゆき(バイオマス産業社会ネット)「再生可能エネルギー電力買取制度が森林経営に及ぼす影響」
7)パネルディスカッション(座長:満田夏花)

*敬称略、論題一部簡略化
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第10回環境史研究会ワークショップのお知らせ [研究会]

第10回環境史研究会ワークショップのお知らせです(ついに10回!)。
今回は、動物がテーマです。
「象の涙―ダーウィン『人間と動物の感情表現』をめぐる考察」を伊東剛史さんが、
「『野生動物』の思想史:日本における動物学・自然・社会」を瀬戸口明久さんが報告されます。
奮って参加ください。
ワークショップの後には懇親会も予定しております。
あわせて参加いただければ幸いです。


【日 時】 2012年10月7日(日)14時~18時
*開始時間が14時からになっています。お気をつけください。

【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室(未定)
      *前回(第9回ワークショップ)と同じ場所を予定しています。

【発表題目と概要】

「象の涙―ダーウィン『人間と動物の感情表現』をめぐる考察」    伊東剛史(金沢学院大学)

 「動物の権利」論において、ダーウィンは人間と動物との間に本質的な差異が存在しないことを証明した最初の科学者であると位置づけられている。特に、それまで人間のみが持つとされていた「高度な知性」、「道徳的観念」、「感情表現」が、動物にも存在すると明らかにしたことの意義が強調されている。一方、ダーウィンが同時代の動物福祉運動に与えた影響については、ようやく本格的な研究が始まったばかりである。こうした状況をふまえたうえで、本報告では、ダーウィンが『人間と動物の感情表現』(1872年)執筆中に見せた、ゾウが涙を流すという現象への「執着」に着目し、emotion -- science -- sympathy という3つのキーワードを軸に、いくつか議論を組み立ててみたい。始めたばかりの研究だが、最終的には、イギリスの動物福祉思想の歴史的展開を俯瞰し、その中にダーウィンを再定位したいと考えている。

「『野生動物』の思想史:日本における動物学・自然・社会」     瀬戸口明久(大阪市立大学)

 この報告では、「野生動物」という概念の展開を通して、近代日本における自然と社会の関係について考察する。日本において人間から切り離された存在としての「野生動物」に価値が見出されるようになったのは1930年代のことである。本報告ではまず1934年に設立された「日本野鳥の会」に注目し、後半では1950年代から70年代にかけて流行した「野猿公苑」を取り上げる。これら2つの事例から、動物学研究や都市におけるレジャーの流行、地域開発など、さまざまな要因がからみあって、「野生動物」の意味を形づくってきたことが明らかになる。最後に現在のトキやコウノトリの野生復帰において「野生」が持つ新たな意味についても言及したい。


以上、よろしくお願いします。

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第9回環境史研究会ワークショップ [研究会]

第9回環境史研究会ワークショップのお知らせです。

今回は、沖縄漁民、捕鯨、満州の炭鉱がテーマです。
「台頭する「沖縄漁民」―「異人種」から郷土の誇りへ―」を山本ちひろさんが、
「近現代日本捕鯨業の組織構成について」を渡邊洋之さんが、
「Carbon Technocracy: Energy Resource Management in 1930s and 1940s Manchuria」をVictor Seowさんが発表されます。
奮って参加ください。
ワークショップの後には懇親会も予定しております。
あわせて参加いただければ幸いです。


【日 時】 2012年7月21日(土)13時~18時
*開始時間が以前より1時間早くなっています。お気をつけください。

【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室
      *前々回(第7回ワークショップ)と同じ場所です。

【発表題目と概要】

「台頭する「沖縄漁民」―「異人種」から郷土の誇りへ―」     山本ちひろ(東京大学)
                            
 1930年代、「南洋」漁業の主要な担い手は「沖縄漁民」であった。南洋群島から東南アジアにまで広く進出していた彼らは、やがて戦時期に「南進の先駆」としての評価を得てゆく。しかし一方で「沖縄漁民」の内実に目を向ければ、それはほとんど交わることのないふたつの潮流によって構成されていた。すなわち、ひとつは東南アジア方面へ出漁していた糸満系追込網漁民であり、他方は南洋群島へ進出していたカツオ漁業者であった。戦時期に「南進の先駆」として注目を集めるのは厳密には前者であるが、彼らを締め出し、長らく関心の外に置いてきた沖縄社会にあっては、そのことに気づくまでに思いのほか時間を要することになる。本報告では、東南アジア方面に展開していた追込網漁民に対し、戦時期に国家によって付与された存在意義を検討し、またそれを写し取ろうとして再編された沖縄の自己像の変遷についてもあわせて考察する。


「近現代日本捕鯨業の組織構成について」             渡邊洋之(京都大学)

 海という環境から生き物を「資源」としてよりうまく得ていくために、人はその方法を改めてきた。近現代日本捕鯨業においてそれは、網捕り式捕鯨からノルウェー式捕鯨、母船式捕鯨へという、技術導入の過程であった。
 この過程を考察するにあたっては、当時の日本捕鯨業に従事していた労働者の実際について、あきらかにする必要がある。本報告では、クジラを捕獲する活動と、クジラを解体処理する活動という、捕鯨にかかわる主要な二つの作業に注目して、これらの活動を行う組織の構成の変遷とともに、それらに従事する労働者の来歴について説明していく。
 加えて、クジラという生き物や捕鯨業という産業そのもの、およびいわゆる捕鯨問題の経緯など、本報告の前提となるような事柄についても、簡単ではあるが解説していきたい。


「Carbon Technocracy: Energy Resource Management in 1930s and 1940s Manchuria」  Victor Seow(ハーバード大学)
*発表は日本語で行います

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国際シンポジウム「日中韓における木材貿易と森林利用」 [研究会]

12月13日(火)9:30~17:00、国際シンポジウム「日中韓における木材貿易と森林利用」をフードサイエンス棟の中島ホールで開催しました。
基調講演として
遠藤日雄氏(鹿児島大学)「日本における木材産業の発展と森林利用」
王登挙氏(中国林業科学研究院)「中国の森林造成と森林利用――林業政策の視点から」
金世彬氏(忠南大学)「韓国の林業と木材産業の傾向」
個別講演として
立花敏(筑波大学)「東アジアにおける林産物貿易とその展開方向」
平野悠一郎氏(森林総合研究所)「中国の木材産業の発展の傾向と特徴」
山根正伸氏(神奈川県自然環境研究センター)「アジア木材市場におけるロシア材をめぐる動向」
の併せて6本の発表が行われました。
日中韓シンポ.jpg
パネルディスカッションでは,世界の中で東アジアの木材貿易がどうなるかを中心に活発な議論が行われました。
日中韓シンポ2.jpg
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第7回環境史研究会ワークショップ [研究会]

来週土曜日に下記のワークショップを開催します。
興味のある方はぜひ参加ください。


以下貼り付け
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第7回環境史研究会ワークショップのお知らせです。
今回は、主に森林をテーマに3人の方に報告をお願いします。
「日本前近代の森林資源開発と日本人の自然観」について脇野博さんが、
「巨樹・巨木からみた薪炭業の生物多様性へのインパクト」について谷口忠義さんが、
「ドイツ各邦の森林法と1942年の帝国森林法案」について石井寛さんが発表されます。
奮ってご参加ください。
ワークショップの後には忘年会(懇親会)も予定しております。
あわせて参加いただければ幸いです。


【日 時】 2011年12月17日(土)13時~18時
*開始時間がいつもより1時間早くなっています。お気をつけください。

【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室
      *前回(第6回ワークショップ)と同じ場所です。

【発表題目と概要】

「日本前近代の森林資源開発と日本人の自然観」  脇野 博(秋田工業高等専門学校人文科学系)
                            
 中谷巌氏は、脱原発は「自然は征服すべきものというベーコンやデカルトに始まる西洋近代思想を乗り越え、『自然を慈しみ、畏れ、生きとし生けるものと謙虚に向き合う』という、日本人が古来持っていた素晴らしい自然観を世界に発信する絶好の機会になるのではないだろうか。」(2011年6月14日 産経新聞「正論」) と述べられたが、はたして日本人は古来から本当に中谷氏が言うように自然と接してきたのであろうか。笠谷和比古氏は、上記のような自然を大切にするという日本人の自然観に対してすでに疑義を呈しておられ、私もこれまで日本の林政・林業史研究に取り組むなかで、疑問を持つようになった。そこで、日本近世の林政・林業に関わるいくつかの事例を通じて、前近代日本人の自然観の再検討に向けて問題提起をしたい。


「巨樹・巨木からみた薪炭業の生物多様性へのインパクト」 谷口忠義(新潟青陵大学短期大学部)

 日本には数百年あるいは千年以上の時を落雷や病虫害・獣害を乗り越え,同時に人間による伐採を免れてきた歴史的な遺産である巨樹・巨木が存在する。現在68,000本ほど存在するそれらの巨樹・巨木のうち薪炭適合樹種は約1割強である。なぜそれらは伐採を免れてきたのか。経済的なインセンティブからその理由を考えてみた。
 薪炭用の樹種は,木材固有の性質や運送上の技術,輸送コストといった要因と,需要の有無と規模により,そのまま放置され巨木に向かうか,薪炭として利用されるかが分かれた。炭生産では大木よりも炭木をそのまま焼くことを経済的に選好しており,百年以上の大木は後回しにし,同じ樹種であれば細い木から伐採することになる。そうした選好が生まれる理由は,大木から焼いた炭は爆跳するなど家庭での使用時に不都合な炭だからである。また,生産サイド(費用)面からいえば,窯詰用の伐採に手間が余計にかかるからであった。薪生産では木炭とは逆となっていた。


「ドイツ各邦の森林法と1942年の帝国森林法案」      石井 寛(元北海道大学)

 森林の維持と保全,森林の持続的管理を課題とする森林政策は森林法を根拠法としている。各国の森林政策の歴史と展開過程を見る場合,どのような森林法が制定されているのか,その特徴がどのようなものかを把握することは必須の作業である。私は今回の報告でドイツの森林法を取り上げたい。
 ドイツの近代の森林法はフランス革命の影響を受けて,1811年にヘッセン,1833年にバーデン,1852年にバイエルン,1875年と1879年にヴェルテンベルクで制定されている。その内容は州有林と公有林の森林官による国家管理,私有林に対する営林監督であった。帝国レベルの森林法を制定しようとする試みは1919年以降,あったもののプロイセンやバイエルンの反対で具体化されなかった。その試みが具体化したのはナチス期であった。林政学者のEbertsやAbetzの努力によって1942年に帝国森林法案が作成されている。同法案は議決されなかったが,その林政思想は第2次大戦後の1950年のラインラント・ファルツ州や1954年のヘッセン州の森林法に影響を与えるとともに,1975年に制定された連邦森林法にも引き継がれている。
 本報告では19世紀の各邦の森林法について説明するとともに,1942年帝国森林法案の内容を明らかにして,戦後への影響について説明したい。



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